あれは確か10年ほど前だろうか。縁あって鬼の苗字入り表札を作っていただいた。藤岡の鬼瓦で作った表札は、とても怖い表情を見せ、魔よけとして人気を集めている。私も以来、お守りとして身の近くに置いている。
久しぶりの訪問だったが、店主で5代目の山口茂さんが快く迎えてくれた。作業場は、あの時と何も変わっていなかった。時代はIT、無人化が進み、そして、コロナが世間を騒がしている。ただ、山口さんは変わっていない。むしろ職人魂がさらに増したように見える。今もなお、手彫り技法にこだわっている。周囲は機械式により簡単にできる技術を取り入れている。しかし、鬼師はこれから先も変わることはないだろう。今を貫く。それが、山口さんのプライドだ。
作業場を見渡すと様々な形相の鬼瓦たちが顔を見せる。それぞれに本物の表情がある。力強い「にらみ」が、どこか温もりを感じさせる。山口さんが一つ一つに命を吹き込んでいるからだ。すべて同じに見えるが、まさに世界に一つだけのもの。
現代の名工は生涯現役を掲げている。初代から200年以上の歴史は、まだまだ続く。
久しぶりの再会が終わった。またいつもの職人の顔に戻る山口さんがいた。
山口鬼瓦店 藤岡市藤岡1866-7